【部活動廃止議論】メリットデメリットと地域移行、全国自治体の議論の現状と展望
教員への負担、少子化、勝利至上主義!?「部活動廃止」について
多くの大人が経験したであろう部活動。
子ども達が人間関係や礼儀などを学ぶ機会である一方で、教員の休日出勤などの課題もあります。今回は、部活動廃止議論と教員の働き方改革、地域移行の現状をみていきます。
部活動の役割
部活動では、子ども達が人間関係や礼儀など学力以外のことを学ぶ場として、学校教育の現場で長く重要視されてきました。
2020年に行われた中高生の子どもを持つ母親を対象にしたアンケートでは、約8割が部活動に加入している結果となりました。
部活動を通じて得たものとしては、上から「友人・仲間」「基本的な生活習慣」「人間性(思いやり)」「社会人基礎力」と続きます。学力以外の面で子どもの成長を支え、クラス以外の人間関係を構築する場と考えられているといえるでしょう。
多くの大人が、部活動の役割を認めていて、その重要性を理解しています。しかし、そんな部活動にも課題があります。
現状の部活動の課題
近年あげられる部活動の課題は主に2つです。
1つ目は、少子化や過疎化によって十分な活動を維持する生徒・児童数を確保できないことです。やりたい部がなくなってしまった、人数が揃わず試合に出られないといった子ども達も多くいます。
2つ目は、教員の負担です。授業終了後や休日に部活動の指導を行い、残業時間の増加や長時間労働につながっています。また、競技経験のない部の顧問を受け持つこともあり、指導力・技術力の面でも適切かといった疑問の声もあります。

部活動の地域移行とは?
文部科学省が出している「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」によると、教員が休日に部活動の指導を行わない環境を整備し、保護者や生徒の要望を満たすために地域の活動として実施できるようにするとしています。
休日の部活動の指導や大会等の引率は、教員ではなく地域人材が担うように移行されます。平日の学校の活動としての部活動と休日の地域活動としての部活動が綿密に連携するとしています。
地域移行のメリット
部活動の地域移行を実現することにより、生徒側にとっても教員側にとってもメリットがあります。
生徒側
- 専門的かつ技術的な指導を受けることが出来る
- 学校の部活動には無い競技を選択できるようになる
- 人間関係を広げることが出来る
教員側
- 部活動指導にあてていた時間を授業準備やその他の業務にあてたり、残業時間を減らすことが出来る
- プライベートを充実させられる
- 指導経験のない部活動を持つなど、ストレスが軽減できる
- 休日に部活動指導を希望する教員は、副業登録をして地域活動として指導を行うことができる
地域移行のデメリット
しかし、部活動の廃止や地域移行は、学校、生徒、保護者、地域社会に様々な影響を及ぼします。
- 学校: 教員の負担軽減が進む一方で、学校が提供してきた教育活動の一部が失われることになります。また、地域との連携強化が不可欠となり、新たな役割が求められます。
- 生徒: 部活動に参加する機会が多様化する可能性がある一方で、地域に適切な受け皿がない場合や経済的負担が増えることで、活動機会を失う生徒も出てくる可能性があります。また、学校生活における仲間との交流や達成感を得る機会が変化します。
- 保護者: 地域移行に伴い、送迎や会費、保険料などの経済的・時間的負担が増加する可能性があります。また、情報収集やクラブ選びの責任も増大します。
- 地域社会: 地域住民や団体が部活動の受け皿となることで、地域コミュニティの活性化や多世代交流の促進が期待されます。しかし、指導者の確保や施設の提供、運営体制の構築など、新たな課題も生じます。
家庭の負担が大きくなる
部活動ではなく、地域の活動への移行となると、会費や施設利用料などがかかってくるケースもあります。また、学校外での活動となると送迎費用などがかかってくる事もあります。
十分な活動ができない地域もある
地域や競技によって、人材確保や活動場所の確保などが難しい場合もあります。技術的な指導に加え、教育者としての資質も求められ、限られた予算の中で適切な人材を集めることが難しい現状があります。
地域移行の現状
岡山県磐梨中学校のケースでは、会費と地域の人に寄付を募って、指導員の謝礼をまかなっています。
運営資金の問題や指導員の確保など、課題も多くあります。
全国自治体での「部活動廃止」議論
- 教員の負担軽減と専門性向上: 部活動指導から解放されることで、教員は本来の授業準備や生徒指導、学級運営といった業務に専念できるようになります。これにより、教員の長時間労働が是正され、教育の質の向上に繋がると期待されます。 尾張旭市では、小学校の運動部活動廃止の背景として「教員の長時間勤務や専門外指導の負担」が挙げられ、廃止による影響として「教員が本来業務に専念できるメリット」が指摘されています。 令和5年3月定例会(第1回)(尾張旭市)
- 地域における多様な学びの機会の創出: 地域移行により、学校の枠を超えた多様な指導者や活動場所が活用され、生徒はより専門的で質の高い指導を受けられる可能性があります。また、学校以外の「第三の居場所」の利用促進にも繋がります。 田原市では、小学校の部活動廃止後、児童センターの利用が増加したことについて、子育て支援課長が「今年度から小学校の部活動が廃止されたことによりまして、放課後の子供の居場所として利用が増加したのではないか」と述べています。 令和 7年 3月 予算決算委員会(田原市)
- 生徒の教育機会の損失と地域格差の拡大: 地域に受け皿となるクラブがない場合や、経済的な理由で参加できない生徒が生じる可能性があります。これにより、生徒のスポーツや文化活動の機会が失われたり、地域間・家庭間の格差が拡大したりする懸念があります。 川西市では、請願を採択すべきとする意見の中で、「地域クラブの受け皿が不透明であり、遠方で通えない生徒がいること、会費や保険に関する情報提供が不十分であることなどが指摘されました。」と述べられています。 令和 7年 6月 定例会(第2回)(川西市)
- 拙速な移行への懸念: 国のガイドラインが段階的な移行を推奨しているにもかかわらず、一部自治体が性急な全面廃止を進めることに対し、準備不足や混乱を招くとの批判があります。 川西市では、請願者側(紹介議員)が「国(文部科学省)が前年度12月に改定したガイドラインでは、教員の働き方改革を進めつつも、部活動の社会移行は令和10年度までの前期3年間で初期のトライアルを進め、その後令和11年度から13年度にかけて実効性のある移行を円滑に進めるべきとされており、平日を含めた全面的な即時移行は求めていないことが指摘されました。」と、国の指針との乖離を指摘しています。 令和7年2月 議会運営委員会(2月20日)(川西市)
- 指導者の確保と質の維持: 地域移行を進める上で、十分な指導経験と専門性を持つ人材を安定的に確保できるか、またその報酬をどうするかという課題があります。川西市では、「有償のボランティア指導が認められていないため、これまで指導してきた教員が任意で部活動に関わりたい場合でも、有償での指導者報酬が認められるよう(近隣の伊丹市のように)門戸を開くべきだという要望」が出されています。 令和7年2月 議会運営委員会(2月20日)(川西市)
- 学校文化の喪失: 特に音楽系部活動など、学校の伝統や文化として根付いている部活動が廃止されることへの懸念も示されています。尾張旭市では、議員から「小学校の金管バンド部が中学校の吹奏楽部の実績の基盤であり、廃止は市の『武器』を放棄することになりかねないとの懸念」が示されています。 令和5年3月定例会(第1回)(尾張旭市)
まとめ
「部活動廃止」に関する議論は、教員の働き方改革と生徒の健全な育成という二つの重要な視点から進められています。小学校の部活動廃止や中学校の地域移行は、教員の負担軽減という明確なメリットがある一方で、生徒の活動機会の確保、地域格差の是正、経済的負担の増加といった課題を伴います。

各自治体は、国のガイドラインを参考にしつつも、地域の実情や教育的意義を考慮し、拙速な判断を避け、段階的かつ慎重な移行を進める必要があります。

そのためには、地域社会全体を巻き込んだ議論と、指導者の確保、財源の確保、施設の整備、そして生徒・保護者の声に耳を傾ける姿勢が不可欠です。
部活動改革は、子供たちの成長と地域の活性化に繋がるチャンスと捉え、持続可能で質の高い教育環境を構築するための重要な転換期であると言えるでしょう。
参考になるサイト
- カンコーホームルーム|【Vol.182】部活動で身につく力」|https://kanko-gakuseifuku.co.jp/media/homeroom/vol182
- 文部科学省|学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について|https://www.mext.go.jp/sports/content/20200902-sptsseisaku01-0000097063.pdf
- 読売新聞オンライン|部活の「完全廃止」目指す市も…指導者の「脱先生」、費用負担で難題|https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20230617-OYT1T50312/

